一般の皆さまへ あつかう主な病気

小児の泌尿器疾病

尿道下裂

尿道下裂

「基礎知識」

Q. 尿道下裂とはどういう状態の事でしょう?
尿道(尿を排出する管)の出口が陰茎の先端になく、陰茎の下側に開いている状態です。
亀頭の形が平べったく、おじぎをしたようになっています。
陰茎の包皮が、下側になく、上側にだけついています。
陰茎が下側へ曲っています。
陰茎と陰嚢の位置関係の異常(二分陰嚢、前置陰嚢)を伴うことがあります。
Q. どれくらいよくある病気なのでしょう?
男の子500-1000人に一人と言われていますが、最近増加傾向にあるようです。
Q. 原因はなんでしょうか?
おかあさんのお腹の中にいる間に、男の子の尿道は陰茎のつけねから先端に向かってチャックを引き上げる様に形成されていきます。尿道下裂はそのチャックが途中で止ったものと考えられます。原因としては遺伝的要素と環境的要素の両方が関係しているようです。
家族内の発生(父親または兄弟が尿道下裂の場合、8-14%に発生します)も報告されていますが、一卵性の双子のうちの一人だけが尿道下裂である場合もあります。最近欧米で発生頻度と重症度の明らかな悪化が報告され、環境ホルモンの関与が議論されています。
Q. 尿道下裂があるとどのような問題がおこるのでしょうか?
尿が下向きに飛ぶので立った状態で排尿ができない。(そりかえって排尿する)

陰茎の形に対する周囲や本人の違和感が、性的コンプレックスなどの原因となりうる
勃起時に陰茎の屈曲が性交の妨げになる

「検査と診断」

尿道下裂の分類

尿道の開口位置で下図のように分類されています。

尿道下裂の分類

「治療」及び「予後と療養」

Q. 尿道下裂は治る病気なのでしょうか?
治せます。ただし、成長により尿道下裂が正常に戻ることはありません。また、現在のところこれを治す薬はないです。この病気を専門にしている医師が手術を行うことで、通常は治ります。
手術時期としては生後6-15ヶ月ごろをおすすめしています。大多数の場合は2-3時間半の手術一回で修復可能です。入院期間は尿の管を抜いてから退院する場合は10日間。管が入ったまま退院する場合は、二泊三日です。
Q. どんな手術をするのですか?
手術の目的は陰茎をまっすぐにし、尿道の開口部をできるかぎり陰茎の先端にもってくることです。それにより、尿はまっすぐに飛ぶようになり、普通の性交ができるようになります。包茎の手術をした陰茎と同じような外見になります。(ただし、日本人のこどもでは包茎の手術をする習慣はありませんので、若干違和感を覚える可能性はあります)手術は全身麻酔です。手術時期としては6-15ヶ月くらいが、手術や母子分離の与える心理的影響を最小限にするために望ましいと思います。

陰嚢水腫(陰嚢水瘤、精索水瘤)

陰嚢水腫(陰嚢水瘤、精索水瘤)

「基本知識」

陰嚢のなかに透明な液体がたまることです。新生児では珍しくありません。大部分の赤ちゃんでは6-12ヶ月で軽快します。こどもの陰嚢水腫は成人の陰嚢水腫とは原因が異なります。赤ちゃんが母胎の中にいるとき、精巣(こう丸)はお腹の中(腹腔)で発生します。それが、出生するまでに、陰嚢のなかに移動してくるのです。その過程でお腹をつつむ膜(腹膜)の一部が、精巣と一緒に管になって降りてきます。この管の事を鞘状突起といいます。多くの場合はこの管が、腹腔と陰嚢の中間で閉鎖するのですが、それが閉じない子もいます。すると、腹腔で生じた液体が陰嚢の中に入ったり、元に戻ったりするわけです。
(陰嚢水腫の大きさが変化するのはそのためです)

そけいヘルニアを併発している場合は小児外科での診察が必要です。そけいヘルニアでは腸の一部分が上の管の中にはまりこんでいます。そけい部(足のつけね)の盛り上がりでわかります。出て来た腸はたいがい、お腹のなかに押し戻すことができますが、ときに腸がはまりこんだまま戻らなくなると腸がねじれて、腐ってしまうことなどもありえます。また、ここまで大きくひろがった管はまず自然閉鎖しませんので、早めに手術を考えた方がよいでしょう。

陰嚢水腫(陰嚢水瘤、精索水瘤)

「治療」及び「予後と療養」

陰嚢水腫の手術の方法

そけい部に2cm以下の切開を入れ、上の管(鞘状突起)を閉鎖することで交通を遮断します。手術時間は約30~60分。日帰りまたは二泊三日以内の入院で全身麻酔下に行います。傷は溶ける糸で表面からは見えないように閉じますので、外来で傷の処置等はいりません。

陰嚢水腫の手術の時期

明らかなそけいヘルニアを合併しなければ、鞘状突起が自然に閉鎖することが期待できます。1才までにたいがいの場合は閉鎖しますので、それ以前に手術を考えることはありません。1才以降は次第に自然軽快する率は低下していきますので、水腫の重症度と就園や就学の時期などもにらみ合わせながら手術の時期を考えて行きます。

手術の必要性

陰嚢のなかに液体がたまることで、精巣の周囲温度が上昇し、精巣の発育が障害される可能性が言われていますが、明確な証拠はありません。手術の必要性は、外見的なコンプレックス、違和感などが決め手になると思います。

停留精巣と遊走精巣(移動精巣)

停留精巣と遊走精巣(移動精巣)

「基本知識」

精巣とは

精巣には精子を作るはたらき(造精機能)と、男性ホルモンを作るはたらきがあります。

停留精巣とは

停留精巣は出生時に発見される男性性器の異常の中で最も頻度の高いものです。精巣はお子さんが、お母さんの子宮の中にいる段階では腎臓のそば(腹腔内)に位置しています。胎児が成長すると共に、精巣はからだの中を下降して、陰嚢内に降りて来ます。
精巣の下降が途中で止まってしまい、精巣が陰嚢内に降りていないものを停留精巣といいます。

精巣が降りて来ない理由

停留している精巣はほとんどの場合造精機能障害を伴っています。ただし片側が停留精巣でも降りている側は多くが正常機能を有しています。かつては、精巣が陰嚢内(陰嚢のしわがラジエーターのように低温環境を作っています)に位置していないために、このようなことになってしまうのだと考えられていました。そのため手術によって、精巣のおかれる環境を改善することによって造精機能障害を改善しうると御両親に説明していました。しかし、低年齢で手術しても造精機能障害が改善しているという証拠は得られておらず、精巣そのものの発育不全のために精巣の下降が停止してしまったとも考えられるようになってきています。

停留精巣の頻度

年齢 頻度
未熟児 10%
通常の新生児 3%
6ヶ月児 0.8%
思春期 0.8%

これを見ると、出生時に発見された停留精巣の多くは6ヶ月までに自然に下降し、それ以降はほとんど変化がないことがわかります。従って、6ヶ月時になっても陰嚢内に降りて来ない停留精巣はその時点で治療の対象になると考えています。

「治療」及び「予後と療養」

停留精巣を手術する理由

生後6ヶ月以降ならいつでも手術対象年齢であると考えていますが、最終的な手術の適応と時期については下に述べるようなことを御両親に御理解していただいた上で、御相談のうえ決定しています。

  1. 1)患側での精子形成能の低下

    上で述べた通り手術で精巣を降ろすことで造精能が高まるという客観的証拠は実は未だに得られていません。ただ、2歳以降に手術した症例では全く改善が認められないことが明らかなので、手術年齢は以前と比べて低年齢化(当科では1歳ごろ)してきています。(それが造精能の改善に結びつくかどうかはまだ結果が出ていません)

  2. 2)精巣腫瘍の合併

    停留精巣には普通の精巣と比較して、約2-50倍高い頻度で精巣癌が発生すると言われています。ただし、日本人では精巣癌そのものが約1万人に一人程度と非常にまれですので、精巣癌になる頻度はせいぜい200-5000人に一人くらいで、驚くほど高いものではありません。思春期前に停留精巣の手術をしておくことによって精巣癌の発症率は半分程度に低下します。また精巣が身体の外にぶら下がっている事によって、発症した場合の早期発見は非常に容易になります。精巣癌の治療成績は他の癌と比較すると進行癌であってもかなりよい方なのですが、10~50歳の青壮年期に発症しますので早期発見して最小限の治療にとどまるようにするにこしたことはありません。
    また、精巣の萎縮が著しい場合や、腹腔内にある場合は、精巣を摘除することも一つの選択肢です。発育障害のつよい精巣は機能的に全く期待できず、発がんの可能性が高いからです。

  3. 3)心理的、外見的な理由

    精巣を降ろす事に劇的なメリットはないという事実を踏まえても、健常な男の子の御両親の多くは手術を選択されます。ふたつの玉が陰嚢の中にないのは男の子として成長していく上でコンプレックスのもとになる可能性が危惧されるからだと思います。その意味で、物心がつく前の年齢で手術を済ませておく事は良いことです。(もちろん、成人して両親から独立する時には幼時に停留精巣の手術をしたことを話しておくべきだと思います)

  4. 4)外傷の危険性

    精巣がそけい部にあると陰嚢内にある場合よりも外傷によるダメージは大きいと言われています。

  5. 5)そけいヘルニア

    精巣の下降が止まることにより、腹膜鞘状突起というふくろが精巣の隣で開いたままになっており、これが拡張するとそけいヘルニアを起こします。

遊走精巣(移動精巣)とは?

遊走精巣はお風呂に入っていたり、指先でつまみ出すとは、陰嚢底まで降りることができるが、時によってはかなり上の方まで持ち上がっていることのある状態です。きちんとした診察が出来ていないとしばしば停留精巣と混同されます。思春期を迎えて、精巣が発育すると自然に陰嚢内に落ち着いてきますので、原則的には手術不要です。ただし、最近になって遊走精巣の一部に、成長とともに逆に降りてこなくなるもの(上行精巣ascending testis)が存在することが指摘されており、注意が必要です。

非触知精巣の場合

三通りの場合が考えられます。 1)精巣がおなかの中にとどまっている場合(腹腔内精巣)
2)精巣が最初からない(精巣無形成)
3)精巣がなくなってしまった(萎縮精巣)
(新生児期に精巣につながっている血管がねじれて、精巣が萎縮してしまうことが主な原因です)
1)2)が主に考えられる場合には腹腔鏡という内視鏡検査で存在を確認して、摘出かあるいは精巣を降ろす手術をします。
3)が主に考えられる場合はそけい部からの残存組織の検索と摘除をします。

小児泌尿器の日帰り手術

京都大学泌尿器科では、停留精巣、陰嚢水腫の手術はデイサージェリー(日帰り手術)棟で全身麻酔下に施行しています。多くのお子さまは入院することなく手術日の夕方までに帰宅していただいています(遠方の方などは一泊入院です)。詳しくは小児泌尿器科担当医師にご相談ください。

膀胱尿管逆流症

膀胱尿管逆流症

「基本知識」

尿路と尿路感染症

尿路とはおしっこを作る腎臓、尿を体の中にためておく膀胱、その間を結び尿を腎臓から膀胱に運ぶ尿管、尿を膀胱から体の外に出す通り道である尿道からなっています。(図)

尿路感染症は細菌(ばい菌)が体外から尿道を通って、尿路に侵入し繁殖することによっておこります。

菌の侵入が膀胱までにとどまれば熱の出ない無熱性尿路感染(大人でいう膀胱炎)といい、菌が腎臓まで達すると、38度以上の高い熱を伴う、有熱性尿路感染(大人でいう腎盂腎炎)となります。

ここで述べる尿路感染とは、主に有熱性尿路感染のことです。有熱性の尿路感染症は入院が必要なほど重症化してしまうことが珍しくありません。さらに、腎臓にとりついたばい菌はこどもの腎臓に傷をつけ(これを腎瘢痕といいます)、その機能を落として行ってしまいます。

尿路と尿路感染症

有熱性尿路感染症と尿路の先天異常

有熱性尿路感染は一歳未満では男の子に、一歳以上では女の子の方に多いですが、いずれの場合にもその背景には尿路の先天異常のある場合が多く、その場合尿路感染症は再発しやすくなります。代表的な先天異常としては次のようなものがあります。 1)膀胱尿管逆流症
2)先天性の水腎症
再発する尿路感染により腎臓の機能が落ちていくのを防ぐためには、一度でも有熱性尿路感染症を経験したお子さんでは超音波検査と膀胱造影検査によりこのような異常の有無を確認しておくことが勧められます。膀胱造影検査を受けさせるのには少し覚悟が入りますが、二度目三度目の熱が出て腎臓がさらに傷ついていくまで検査を受けずにいることもやはり避けたいところです。
また、尿路感染をまだ起こしたことがない子供でも、超音波検査で腎臓にはれが認められる場合には逆流がその原因となっている場合があり、検査を受けることをおすすめします。

膀胱尿管逆流症とは

尿管と膀胱のつなぎ目は、いったん腎臓から膀胱におりてきた尿がまた腎臓に戻らないようにする弁の機能を持っており、ばい菌が膀胱の中にいても普通は腎臓まで達することはありません。膀胱尿管逆流症とは、この弁機能が未成熟なために膀胱の中の尿が腎臓の方に逆流することで、腎盂腎炎を発症しやすく腎臓にダメージを与えていきます。

二次性の逆流

また、元来つなぎめの異常がなくても、異常な排尿習慣や膀胱の神経疾患のために膀胱の中の圧が異常に上昇しておこる逆流もあり二次性の逆流と呼ばれます。その場合は排尿そのものの管理が重要です。

「検査と治療」

排尿時膀胱尿道造影

レントゲン検査を併用しながらカテーテルという管を用いて造影剤を膀胱の中に注入し、膀胱内の尿が尿管へ逆流する程度を調べます。膀胱内の圧力や尿道の狭窄なども同時に調べる場合があります。

腎臓のアイソトープ検査

主に腎臓の機能を見る検査です。膀胱尿管逆流症の場合はDMSA腎シンチという検査を行い、左右の腎臓の大きさの比と、腎組織への障害(瘢痕)の有無を評価します。

治療

  1. 1)保存的治療法

    多くの場合こどもが成長するとともに尿管と膀胱のつなぎ目は成熟し、逆流の程度は軽減していきます。そこで、1年に一回造影検査を繰り返して経過を見ていくことになります。逆流がある間は、有熱性尿路感染の発症を防ぐために抗生物質を長期間にわたって一日一回少量服用します。それでもその予防効果を乗り越えて尿路感染を起こしてしまう場合には手術療法が勧められます。

  2. 2)手術療法

    下腹部に約6cmの横切開をおき、尿管と膀胱をつなぎ直す手術です。
    対象は、1)逆流の程度が強いとき、2)予防的抗生剤を投与しても重症の尿路感染症を発症するとき、3)腎臓へのダメージが大きいときです。保存的治療法で、中程度の逆流が最後まで残存した時にも考慮する場合があります。

  3. 3)内視鏡手術

    尿管と膀胱のつなぎ目に補強剤を内視鏡下に注射する方法です。麻酔は必要ですが、傷が残らずすぐに退院できますので開腹手術よりもはるかに簡単です。根治性に劣りますが、程度の軽い年長児などでは適応となります。

    腎臓でつくられた尿は尿管をとおって膀胱にためられます。正常な尿路では、尿管から膀胱にはいるところ(尿管膀胱移行部)に輪状の筋肉があり、膀胱の尿が尿管へ逆流しないようになっています。膀胱尿管逆流症とは、この輪状の筋肉か弱いために膀胱の尿が尿管や腎臓まで逆流する病気です。腎盂腎炎などの有熱性尿路感染症の原因となり、くり返す腎臓の炎症のために腎臓の機能が悪くなります。自然治癒が期待できるので通常はまず感染予防を図りながら経過観察します。逆流の程度によりⅠ~Ⅴ度に分類されていますが、Ⅲ度以上の逆流については、くり返す尿路感染、腎機能低下などを指標に、「尿管膀胱新吻合術」という手術を考慮します。

先天性水腎症(腎盂尿管移行部狭窄症を含む)

先天性水腎症(腎盂尿管移行部狭窄症を含む)

「基本知識」

水腎症とは、腎盂という尿がつくられてからいったん腎臓の中でたまるところが尿でふくれている状態です。 先天性水腎症は機能的な異常を伴うこともありますが、正常な状態なこともあります。原因としては次のようなものが挙げられます。

1)膀胱尿管逆流症
2)閉塞のない腎臓の拡張(機能的には正常な状態)
3)腎盂尿管移行部狭窄症
4)膀胱での排尿障害(神経因性膀胱、尿道弁)
5)尿管瘤
6)尿管膀胱移行部狭窄症
7)多のう胞性異形成腎
8)異所開口尿管
最初の3つが最も一般的です。

水腎症とは

閉塞にともなう典型的な水腎症は腎臓のレベル(腎盂尿管移行部)かまたは膀胱のレベル(尿管膀胱移行部)で見られます。
水腎症は以前は尿路感染などで発見されることが多かったのですが、現在ではほとんどの場合胎児期または、出生後の超音波検査で見つかります。

「検査と診断」

超音波検査

水腎症の分類と程度は超音波検査の所見により決まります。 下の図のように分類されています。

超音波検査 超音波検査

排尿時膀胱尿道造影

膀胱尿管逆流症のページにも書かれていますように、膀胱にいったん入った尿が腎臓に逆流すると、有熱性尿路感染の原因になります。これを診断する検査です。II度以上の水腎症では、将来尿路感染を起こす危険性がないことを確認するために勧められる検査です。

腎臓のアイソトープ検査

主に腎臓の機能を見る検査です。2種類の検査があります。

  1. 1)DMSA腎シンチ

    左右の腎臓の大きさの比と、腎組織への障害(瘢痕)の有無がわかります。

  2. 2)レノグラム検査

    腎臓からの尿の流れ具合が判定できます。

III度とIV度の水腎症では 腎臓のアイソトープ検査が勧められます。

検査により水腎症の原因と状態を評価し、疾患別に治療方法を決定します。