医療関係者向け 研究活動

研究活動

基礎的な研究

京都大学泌尿器科では、他の研究室・他大学との共同研究などを含めて様々な基礎的研究(含:translational research)を行っています。

  1. 前立腺癌研究
  2. 腎癌研究
  3. 尿路上皮癌研究
  4. 排尿機能に関する研究
  5. 医工連携研究

研究目的は、疾患(病気)の発生や進展のメカニズムの解明、新たな診断法の開発、新たな治療法や技術の開発など多岐に及んでいます。まず基礎的な研究を簡単に各分野における研究内容と業績を紹介します。(臨床研究(臨床試験を含む)は後に述べます。)

前立腺癌研究

前立腺癌の発症・進展予知を目的とした遺伝子多型研究

疫学的データからも明らかなように前立腺癌の発症・進展にも遺伝的背景は重要である。京都大学は他施設と共同研究で前立腺癌の発症・進展予知を目的として遺伝子多型解析を行い、発表してきた(J Urol. 2003, Jpn J Clin Oncol. 2005, Hum Mol Genet. 2010)。特にゲノムワイドSNP関連解析では、日本人の前立腺癌発症と強い関連が疑われる新規のSNPを発見した(Nat Genet. 2012)。従来のPSA検査に加えて、SNP検査を併用することで、不必要な前立腺生検を回避できる可能性が示唆された(PLoS One. 2012)。 近年は侵襲の少ないliquid biopsyに着目し、cfDNA(cell-free DNA)から低頻度変異を検出するパイプラインeVIDNCEを構築(Sci Rep. 2019)し、CRPC患者のcfDNAから低頻度変異の検出を可能にした (Clin Cancer Res. 2021)。今後は遺伝子多型解析に加え、ゲノム解析やリキッドバイオプシーによる解析を進めると共に、血中ホルモン、増殖因子レベルと前立腺癌発症・進展、さらに食生活との関連も含めた疫学研究も進めている。

前立腺癌の進展予知と治療標的の探索を目的とした包括的遺伝子ならびに蛋白発現解析

前立腺癌のアンドロゲン非依存性獲得のメカニズムを明らかにするため、新規に樹立したcell lineを用いてアンドロゲン非依存性獲得のモデルを作成し研究を進めている(Mol Endocrinol. 2006, Mol Endocrinol. 2010)。また患者由来組織をマウスに移植したPDX(patient-derived xenograft)マウスモデルを作成し、継代を続けている。このPDXマウスモデルを用いて、前立腺癌にAR mutation(W741C) がある場合、Bicalutamideが腫瘍増殖を促進する(Cancer Res. 2005)、EP4はCRPCの治療標的になりうる(Cancer Res. 2010)、アンドロゲン枯渇下においてmiR-582-5pは前立腺癌細胞の増殖を助長する(Prostate. 2014)ことに加え、OPRK1がCRPCの病態に関連し、治療標的となりうることを報告した(Commun Biol 2022)。また、嚢胞形成を伴うCRPC由来のPDXモデルマウスのKUCaP3を樹立し(Prostate. 2016)、さらに神経内分泌前立腺癌(NEPC)臨床検体を用いたPDXマウスモデルから、希少なNEPC細胞株のKUCaP13を樹立した(Cancer Sci 2020)。さらにpTEN欠損マウスモデルを用いてRalGAPが発癌に関わることを示した(Carcinogenesis 2019)。また前立腺癌臨床検体を用いた検討では、テストステロン合成にかかわる酵素であるAKR1C3が正常前立腺組織と比較して癌組織で強く発現し、特にCRPCではさらに強く発現を認めAKR1C3が前立腺癌進行に関わると報告した(J Clin Med. 2019)。

次世代質量分析装置によるプロテオミクス・メタボロミクス的手法を用いた新規バイオマーカー探索

PSAは優れた前立腺癌のバイオマーカーだが、感度は高いが特異度が低い・一度の検査では病勢や予後の予測にはむいていない、などの弱点もある。これらの弱点を補完する新規バイオマーカーを探索するため、島津製作所との共同研究でプロテオミクス・メタボロミクス的手法を用いた研究を進めている。過去には、摘出標本を用いた高解像度質量顕微鏡による研究では、前立腺癌において特定のphosphatidylinositolの発現が亢進していること(PloS One. 2014)と、特定のlysophosphatidylcholine (LPC)およびsphingomyelinの発現が減弱し、特にLPCの発現減弱は根治的前立腺全摘除術後におけるPSA再発の独立したバイオマーカーになり得るということを報告した (Prostate. 2015)。また、次世代質量分析器による研究では、前立腺癌患者のマッサージ後尿はPSA分子のC末端断片が有意に多く含まれたこと(PloS One. 2014)、前立腺癌者尿は前立腺肥大症患者尿と比べて尿中リン脂質の割合が有意に高いことを報告した(Cancer Sci. 2021)。

腎癌研究

腎細胞癌におけるバイオマーカー探索

腎細胞癌の発症・進展には遺伝的背景が重要とされている。当科ではこれまでにMMP-9遺伝子多型が癌の悪性度に関連していること(Cancer Lett 2006)、他施設と共同研究で腎細胞癌のインターフェロンα感受性予測を目的として遺伝子多型解析を行い、STAT3遺伝子多型が感受性予測マーカーとなることを報告した(J Clin Oncol 2007)。さらに、免疫療法や化学療法の感受性に関与する分子ならびに薬剤を同定し、治療効果の向上を目指している(Eur Urol 2007, Urology 2007, Cancer Sci 2007)。また、DNAチップを用いて腎細胞癌組織の遺伝子発現を網羅的に解析し、CDCP1の発現が予後予測マーカーとなることを示した(J Cancer Res Clin Oncol 2008)。進行性腎細胞癌に対して広く臨床応用されている新規分子標的薬の抗腫瘍効果についても腫瘍血管の薬剤感受性(Am J Physiol Heart Circ Physiol 2005)の観点から検討し、抗血管新生療法の良い標的となり得る腫瘍微小血管形態について示した(Cancer Sci 2012)。さらに血中遊離DNA(cfDNA)および血中循環腫瘍細胞(CTC)を次世代シーケンサーやデジタルPCRで解析しVHLの低頻度変異を検出できる系を確立した(Cancer Sci 2021)。現在はさらに遺伝子情報に基づく薬剤感受性を予測できるシステムを構築中である。

腎細胞癌における薬剤耐性克服に関する基礎的研究

進行性腎細胞癌に対してVHL-HIF経路あるいはmTORを標的とした薬剤が開発・臨床応用され、従来の免疫療法に比べて治療成績や予後の改善を認めているが、無効症例や治療抵抗性が問題となっている。当科では新規治療標的の探索を行っており、従来の標的とは異なるVHL-atypical PKC-JunB経路が腎細胞癌の進展に関わっていることを報告し(Oncogene 2012)、その経路にある治療標的分子を同定して(Cancer Medicine 2016)さらなる研究を進めている。さらに、これまでの細胞株マウス皮下腫瘍モデルとは異なり、より実臨床に近い臨床検体由来マウス皮下腫瘍モデルを数系統樹立しており、それらを用いてスニチニブやアキシチニブ、テムスロリムスといった分子標的薬耐性マウスモデルを作製することに成功した。さらにGeneChip解析や次世代シークエンサーといった解析手法を用いて、スニチニブ耐性に関与する分子としてIL13RA2を同定した(PLoS One 2015)。現在はさらにカボザンチニブ耐性モデルの樹立を目指している。

次世代質量分析を用いた腎細胞癌の発生・進展に関わる生理活性脂質の探索

腎細胞癌や前立腺癌では高脂肪食、肥満が発癌のリスクファクターであるという疫学的背景があり、脂質代謝と癌の発育進展との関連が指摘されている。当科ではこれまでに、高解像度質量顕微鏡を用いて前立腺癌組織切片上の脂質の網羅的解析を行い、癌細胞に特異的な脂質組成が存在することを見出した(PLoS One. 2014)。現在腎細胞癌においても同様に解析しており、癌の進展に関わる脂質代謝機構を解明し、その臨床応用を目指している。また、液体クロマトグラフィー質量分析計を用いて腎癌患者血漿中の定量的メタボローム解析を行い、脂質を中心とした新規の血中腎癌診断マーカーあるいは腎癌予後予測マーカーの同定を目指している。

細胞外小胞に着目した腎細胞癌の骨転移機序の研究

腎細胞癌骨転移は肺転移に次いで多い転移である。痛みや病的骨折、神経圧排症状によるQOLの低下に加えて予後不良との関連も示されているが、現行の治療では十分なQOL、予後改善には至っておらず新たな治療標的の発見につながりうる骨転移機序の解明が喫緊の課題となっている。近年、癌の転移において細胞外小胞という100nm前後の小胞が重要な役割を果たしていることが報告されている。
そこで当科では骨転移指向性を高めた腎癌細胞株を作成し、この細胞が分泌する細胞外小胞が、アミノペプチダーゼNというタンパクの機能を介して骨髄特異的に血管新生を誘導し骨転移の成立を促進することを発見した。現在は細胞外小胞を標的とした治療が骨転移を抑制し新たな治療標的となりうるかを明らかにするべく研究を進めている。

尿路上皮癌研究

1. 尿路上皮癌におけるシスプラチン(CDDP)耐性機序の克服

1) Galectin7による化学療法感受性亢進の分子機序の解明
我々は、尿路上皮癌においてgalectin7の発現誘導が酸化ストレスの蓄積を介してJNK-Bax-mitochondria経路の活性化を惹起しCDDPの感受性を亢進することを同定し、今後新たな分子標的となりうる可能性を見出した。(Cancer Res. 2007)

2) NADH quinone oxidoreductase-1(NQO1)活性修飾による抗癌剤耐性克服に関する研究
我々は、欧米で抗凝固剤として臨床応用されているDicoumarolがNQO1の作用を特異的に阻害することによって、p53野生型尿路性器癌においてCDDPの殺細胞効果を増強することを見出した。その機序として、Dicoumarolがp53-p21経路を介した細胞周期停止機構を阻害し、その結果JNKを活性化することでmitochondriaを介したapoptosisを誘導することを解明した。(Oncogene. 2006)

3) triptolideによる化学療法感受性亢進の分子機序の解明
我々は、尿路上皮癌においてtriptride投与によりp-Ser-9 GSK3beta制御を介したp53転写活性調節がCDDPの感受性を亢進することを同定し、今後新たな分子標的となりうる可能性を見出した。(Oncogene 2008)

4) 化合物スクリーニングを用いた膀胱癌新規治療法の探索
京都大学医学研究科では医学研究支援センター内に「創薬拠点コアラボ」を設置し、現在約2100種類の既存薬及び機能既知化合物を保有している。これらの化合物を用いたスクリーニングにより、膀胱癌に対する既存の抗腫瘍薬の作用を増強するまたは薬剤耐性を克服する化合物を同定し、機能解析および臨床試験への導出を目指している。近年では化合物スクリーニングによってシスプラチン感受性増強薬として同定されたdisulfiram が、シスプラチンの細胞内濃度を上昇させることで、細胞内ROS の蓄積を介してアポトーシスを増強することを報告した(Br J Cancer. 2019)

5) WEE1阻害剤のシスプラチン感受性増強効果における分子的機序の解明
M期における細胞周期調節 kinase である WEE1 の阻害薬がp53 変異細胞においてシスプラチンの感受性を増強することを報告した(Cancer Sci. 2021)。

2. CGH arrayを用いた膀胱癌腔内再発に関する網羅的解析

膀胱癌は一般に多発または再発しやすいが、その過程で異なる組織学的所見を診ることが少なくない。われわれは同一症例から経時的に採取した膀胱癌サンプルのCGHarrayの解析から、膀胱癌のprogenitor cellに異なる遺伝子変化が蓄積することで、異なる組織学的変化を有した膀胱癌が生じることを示唆した。(Cancer Sci. 2006)

3. Microarrayを用いた網羅的解析をより活用する為の新たなBioinformatics modelの開発

1) ニュージーランドオタゴ大学との協力にて、当教室に蓄積された膀胱腫瘍サンプルからcDNA microarray解析を行った。その結果、p21 activated kinaseが表在性膀胱癌の再発予測に役立つことを示した。(J Urol. 2007)

2) また一方で、尿路上皮癌に特異的な4遺伝子を同定した。それらを臨床サンプルでの検証を行い、RT-PCRにて各々の尿中RNAレベルを測定することで尿路上皮癌が高い精度で予測できることを示した。(Clin Cancer Res. 2008)

4. 浸潤性膀胱癌の新規マウスモデルの開発

浸潤性膀胱癌の治療指針は免疫チェックポイント阻害剤の出現により大きな転換期を迎えたが、実際の治療成績は未だ十分とは言えず、その理由として膀胱癌の発生母地や発生メカニズムが不明であり、またヒトの膀胱癌を忠実に反映したマウスモデルの作成技術が確立されていないことなどが挙げられる。BBN化学発癌マウスモデルにおいて、膀胱癌起源細胞と考えられたKrt5陽性細胞特異的にTrp53変異を誘導することによって、ヒト膀胱癌の中でも最も予後不良なBasal-Squamousサブタイプに遺伝的に類似した筋層浸潤膀胱癌も発生が促進されることをLineage tracing法を用いて示した。(Am J Pathol. 2020)また、マウス膀胱内における尿路上皮細胞に、アデノ随伴ウィルスを用いてより効率的に遺伝子編集を加える手法を確立した(J Virol Methods. 2020)。この手法により、Krt5陽性尿路上皮細胞において複数のドライバー遺伝子候補をノックアウトし、膀胱癌発生を誘導できることを確認した。また、3D培養系での膀胱癌発生の誘導に着手し、免疫系に異常をもたない同系マウスを用いた癌免疫治療モデルとしても有用な膀胱癌マウスモデルの確立を目指している。

排尿機能に関する研究

組織工学とドラッグデリバリーシステムを用いた再生医学に関する研究

我々は1999年より組織工学やドラッグデリバリーシステムを軸とした再生医学についての共同研究を京都大学再生医科学研究所(田畑泰彦教授)と継続して行ってきた。その結果これまでに脱細胞化膀胱マトリクスを利用した膀胱再生(J Urol. 2003, Biomaterials. 2004)、MMP-1プラスミド徐放による腎線維化抑制(Tissue Eng. 2003)、生体吸収性人工材料を利用した尿道再生(Tissue Eng. 2007. 2005年8月4日特許公開)、膀胱への新しい遺伝子導入ベクターの開発 (J Controlled Release. 2006) など多くの成果をあげてきた。

膀胱の分子的再生制御機構に関する研究

しかし、その一方で従来型の再生医学の概念だけでは臨床応用への道はなお遠いという認識から、組織の荒廃と再生の分子生物学的なメカニズムの理解が再生医学の本質と考えるようになってきた。そこから、骨髄細胞が膀胱で平滑筋に分化するための至適増殖因子環境を明らかにするなど(Am J Pathol. 2005)独自の業績をあげてきた。このような再生研究の延長として、再生研との共同研究はより生理的な文脈で膀胱の再生治療ターゲットを探る方向に研究戦略を転換してきた。例えば、下部尿路閉塞時に尿路上皮から産生されるbFGFがERK1/2を介して平滑筋の増殖とコラーゲン産生を制御するとともに(Am J Physiol Renal Physiol. 2007)、排尿筋過活動の原因となること(Am J Physiol Renal Physiol. 2009, J Urol. 2011)を示した。近年は泌尿器科研究室においても、より疾患特異的な排尿研究を分子生物学的基盤に基づいて行っている。最近の成果としては、副甲状腺ホルモン関連蛋白-C末端(PTHrP)が膀胱平滑筋の内因性弛緩物質として機能していることや(Endocrinology. 2013, BMC Urol. 2015)、過活動膀胱発生機序の分子生物学的解析を行いギャップ結合が新規治療ターゲットとなりうる可能性を報告した(PLoS One. 2014)。さらに病態生物学医学(松田道行教授)との共同研究にてintravital imagingを利用することで、尿路上皮が伸展刺激を受けた際に放出されるATPがERKを活性化させることを報告した(Physiol Rep, 2016)。

膀胱バイオロジーの時間生物学的アプローチ

膀胱バイオロジー研究を進める上で大きな貢献を果たしたのが、マウスの微少な排尿量を解析するために濾紙を用いた方法を開発(Neurourol Urodyn. 2008)、さらに自由行動下のマウスを経時的に測定可能としたシステムを構築したことである(automated Voided Stain on Paper: VSOP法、Nat Commun. 2012)。この方法を用いて、排尿にも日内リズムがあり、そのメカニズムにおいて、膀胱にも存在する体内時計が膀胱機能の日内変化をもたらすことを、ギャップ結合構成蛋白であるコネキシン43(Cx43)に着目し、世界で初めて明らかにした(Nat Commun. 2012, FEBS Lett. 2013)。さらに極微量である離乳後マウスの排尿の日内パターンの発達を捉え(J Urol. 2013)、これらの成果から、排尿機能の時間生物学的なレビューを報告するなど、この分野で世界をリードする成果を挙げている(J Urol. 2013)。以後、膀胱での概日時計の関与の研究が多くなされ、尿路上皮での概日時計の関与や日内変動を来す分子の関与などが他の研究室からも相次いで報告されることとなった。当教室では、ギャップ結合に関連した研究を進め、ギャップ結合関連蛋白であるパネキシン1が多発性硬化症モデルマウスの炎症性サイトカインシグナル(Sci Rep 2013)や、膀胱炎症マウスモデルにおいて、Cx43の発現が亢進し、一回排尿量が低下すること( PLoS One 2014)、尿路上皮の概日時計とCx43が尿路上皮のATP放出による細胞間情報伝達機能の日内リズムを形成すること(Sci Rep 2018)、その尿路上皮特異的ノックアウトマウスによる解析(Int J Mol Sci 2021)などを報告している。現在、臓器特異的な時間生物学的アプローチによって、泌尿器領域の新たなバイオロジーの発展を目指して研究を進めている。

医工連携研究

次世代型手術シミュレータの開発

近年、ロボット支援下手術や腹腔鏡下手術では「低侵襲」でありながらより多くの「機能温存」を求められる時代になり、外科医のトレーニングや術前シミュレーションの重要性が高まっている。外科医トレーニングにおける課題の一つとして「安全かつ効率的な手術を行うための力の習得」がある。我々は術中の臓器把持、圧迫などにかかる力量を正確に測定できる圧力測定鉗子Pressure Measuring Grasper(PMEG)を開発し、生体ブタ臓器に与えた力(N)に応じた変形の度合い(mm)を高い精度で測定することに成功した(Adv Biomed Eng. 2016)。現在も様々な角度から生体臓器のデータを収集・蓄積し、術中に臓器に及んだ外力と臓器変形の関係性を明確にし、手術シミュレータや術中の安全制御装置の開発につなげたいと考えている。

  1. da Vinci手術システムによる熱組織損傷の評価
    組織切除や止血の際の不適切なエネルギーデバイスの使用は、温存すべき正常組織へ不要な熱損傷を及ぼす可能性がある。一方で手術器具により発生しうる組織損傷を分析した報告はほとんどない中、必要以上に熱損傷を恐れてエネルギーデバイスの使用を避け、出血量増加につながっている可能性もある。我々はda Vinci Xiモノポーラシザーズのカットモード及び凝固モードそれぞれの組織熱伝導範囲と対応する組織損傷を様々な角度から評価した。止血能力及び熱損傷範囲に関する各モードの特性を深く理解し、手術局面によって適切に使い分けることが術後機能温存にとって重要であることが示唆された(HCI International.)。
  2. ロボット支援下腎部分切除における3Dナビゲーションシステムの開発
    ロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術において、埋没型腫瘍の場合、術中腫瘍位置の特定に難渋することがある。我々は、術前CT画像から腎腫瘍及び血管系を3Dモデルとして構築し、術中にリアルタイムで手術画像と重畳させ、腫瘍位置、血管構造を提示する3Dナビゲーションシステムを開発している。3Dモデルの作成には富士フィルム社の3次元画像解析システムボリュームアナライザー「SYNAPSE VINCENT🄬」を用い、腎、腫瘍、腎血管および尿管情報を抽出した。すでに実臨床での有用性を確認しており(HCI International)、現在はさらにナビゲーション精度を上げるために、機械学習によってAIが自動的に正確な重畳を達成するための研究を行っている。

術前CTをもとに3Dモデルを作成

実地臨床研究(含:臨床試験)

京都大学泌尿器科では多くの実地臨床研究も行っています。これらは診療にともなうものなので詳細は割愛しますが、テーマの一部を以下に列挙します。

  1. 表在性膀胱癌の再発を予測するための遺伝子診断の有用性に関する多施設共同研究
  2. 浸潤性膀胱癌に対する術前MVAC化学療法施行の予後改善における意義に関する臨床研究
  3. 膀胱癌に対するBCG注入療法における維持療法に関する研究
  4. 浸潤性膀胱癌に対する膀胱全摘除術のアウトカムに関する多施設共同研究
  5. 進行性腎細胞癌に対するFludarabineを用いた非骨髄破壊的同種造血幹細胞移植(ミニ・トランスプラント)による治療の臨床研究
  6. 良好な生検所見を有する前立腺がん患者における臨床的追跡を基盤とした病態に関する研究(厚生労働科学省がん研究助成金計画研究)
  7. 前立腺癌の術前病理病期予測を目的とした日本版ノモグラム作成研究
  8. 早期前立腺癌における根治術後の再発に対する標準的治療法の確立に関する研究(厚生労働科学省「効果的医療技術の確立推進臨床研究事業」)
  9. 骨転移を伴うホルモン治療不応性前立腺癌に対するビスホスホネート療法に関する臨床試験
  10. 根治的前立腺摘除後のPSA再発に対するプレドニゾロン少量間歇投与の有用性に関する多施設共同無作為化比較試験
  11. ホルモン不応性前立腺癌に対するプレドニゾロン併用によるRP56976(ドセタキセル)の第相臨床試験
  12. J-CAP内分泌療法施行前立腺癌患者
  13. 根治療法後のPSA再発に対するビカルタミド単剤間歇療法
  14. 間質性膀胱炎に対する新規薬剤(抗アレルギー薬:IPD-1151T)に関する臨床研究
  15. 泌尿器科手術の周術期感染症の発症状況と危険因子の解析を目的とした多施設共同研究
  16. 小児下部尿路症状の解析ツールの開発の研究
    自動尿流測定パターン化ソフトウエア Automated objective patterning software