関西医大から京大に戻ってきたということで久しぶりのスタッフブログ執筆となる。こういったコラムの場合、最近読んだ本の紹介というのが定番であるが、ここ数年は仕事に追われて読書の時間がほとんどないので、これまでに読んできた私の好きな歴史小説を紹介させていただくこととする。1作目は中学入学してすぐ読破した三国志(吉川英治版)である。
歴史好きになったのは清風南海中高時代からの親友Y君とK君の影響が多大である。学期が終わるごとにY君の家に集まって朝から夕方までスーパーファミコンゲームの三国志をやっていた。Y君は曹操、K君は孫権、私は劉備を選ぶのが、ルーチンであった。プレイ歴のある方は分かると思うが、シミュレーションゲームは1日では到底終わらない。それでもすごく楽しかったのはなぜかというと、3人とも吉川英治先生の三国志を漫画ではなく、講談社の文庫本で何度も読んでいて登場人物を暗記していたので、いろんな武将がゲーム中に登場するたびに、ああだこうだと人物評を披露しあうからなのだ。激論になるのは決まって3英傑の誰が一番すごいと思うか?という永遠のテーマである。K君と私は、裏切りや汚いことがとにかく嫌いだったので、曹操だけは絶対に許せない、という立場であった。Y君は曹操に対しては、幾度にもわたる存亡の危機(枚挙にいとまがないが、官渡の戦いが最大であろう)を、優れた判断力と胆力で乗り切った点を高く評価していた。すでにそう思っておられる方は多いと思うが、要するにK君と私は書生気質で吉川作品の流れに乗せられていたのである。そんな私でも社会人になりそれなりに荒波を経験した今、すごいなと思うのは、あれほど嫌いだった曹操である。K君(呉)と私(蜀)の立場の違いは、理念に殉ずるか、現実路線を取り入れるか、にあったように思う。このようにいろいろと違う考えを持ちながらも共通の話題でここまで盛り上がれる歴史小説は三国志をおいてほかにないのではないかと思う。
その後の3人であるが、今年そろって50歳になった。私は医学部に進み医師となり理念重視の生き方を続けているが前述の通り曹操の現実路線も評価するようになった。Y君は文系に進み機械メーカーに就職し、30代で事業を興した。同級生としてはその早い決断にやや驚いたが、安定に満足せず好機と見るや果敢に挑戦する姿は曹操そのものであった。K君は大手金融機関に就職し堅実路線を歩みながら40歳前後に経済アナリストとして存分に力を振るうことのできるシンクタンクに移った。まさに江東に根を張りながら中原を狙う孫権のようである。吉川三国志は単なる歴史書にとどまらず、読者に無限の世界観と生き抜く力を提供してくれる本である。
(私の好きな歴史小説(2)に続く)
齊藤亮一