「プロフェッショナルとしての技術を磨く上で外科医が他の技術系のプロと決定的に違っている点は何でしょう?」学生との昼食会で私が学生に聞く質問の 1 つである.「外科医はきわめて練習がしにくい職業」というのが私の答えである.京都を代表する技術系のプロの 1 つは板前さんである.まな板の前で包丁を使うから「板前さん」と呼ばれているそうだ.もし,包丁さばきが下手ならば,桂剥きを一日中やるなり,魚を大量に仕入れて刺身作りを練習すればよい.しかし,残念ながら外科医はそのような練習ができない.もちろん経験数は必要であるし,それを否定するわけではないが,うまくなるために多くの患者さんに迷惑をかける訳にはいかないのである.優秀な外科医とは,自分の手術数を自慢する医師ではない.真に優秀な外科医は少ない経験数で高いパフォーマンスの手術を完遂している.
それでは,優秀な外科医になるにはどうしたらよいか. 1 つ 1 つの症例経験から最大限の自己フィードバックを行う努力.他人の経験でさえ自分のものとして消化出来る感性.そして,同じ過ちを決してしない覚悟を持つことである.
( 小川 修 )